5-2, 戦略的重点課題の分析アプローチ

重点課題の分析では、緊急性、影響性、新奇性といった視点が求められます。環境トレンドを分析する中で、気づいていなかった別の課題が発見されるかもしれません。続いて重大な課題に直面している、あるいは直面するであろう事業領域に注目していきます。

自社の「戦略課題」を明らかにするには、将来の推進力を決定する戦略分析を通じ、重点課題にスポットを当てていきます。分析の最初のステップは、「重点課題の識別」で す。図表5・2で示すとおり、3つのトレンドから課題認識を進めていきます。その際に、「社外環境のトレンド」、「社内状況の トレンド」、そして「自社パフォーマンス(業績)のトレンド」にフォーカスします。主要なトレンドのうち、将来の組織に大きなインパクトを与えうる、非連 続性に着目しなければなりません。これは「ブレイクスルー」と称し、とくに意識して識別しておくべきものです。

次のフローでは、環境トレンドから「脅威 と機会」を、社内トレンドから「強みと弱み」を、「パフォーマンスのトレンド」からは「目的・目標 ギャップ」を抽出していきます。そこから浮かび上がってきた課題に対し、影響度と緊急度を勘案して、「重要課題の割り当て」を実施します。重点課題の割り当てでは、4つのタイプから意思決定が行われます。これが重点課題マネジメントの特徴です。

5-1, ストラテジック・イシュー・マメジメントの本質

環境にリアルタイムに対応する、これがストラテジック・イシュー・マメジメント(SIM)「戦略的な重点課題の対応」です。

重点課題とは、近々に自社内外で生じる、目的・目標達成の障害となるものです。重点課題には選好される環境「機会」や、自社の「強み」や、忌避される社外の「脅威」や 自社の「弱み」があります。特に、脅威は環境の非連続性を強調します。企業家精神をもって脅威を機会に転換する、これがイノベーションです。

SIMでは、意思決定のスピードがポイントになります。それは環境要因から「弱い信号」を察知できるかどうかとも言い換えられます。戦略的モニタリングでは、起こりうる影響を予見し、意思決定へと即時にフィードバックできるかどうかが問われることになります。

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4-11, 不測事象対応計画

乱気流環境下の戦略計画策定では、事前に複数の計画を持ちあわせておく必要があります。事後対応では、変化に適応できません。これは図表1・4の「経営に対する影響 新たなゲームのルール」の最終項のとおりです。

通常、環境シナリオは3パターン、基本計画と合わせ計4つを準備することが望ましいのですが、乱気流環境下では、「不測事象対応計画(contingency planning)」を策定してこれに代えます。なぜなら図表1・4の「過去の強みは、現在のそして将来の弱みになる」、こうした事態が頻発するからです。

不測事象対応計画の作成では、アキレス健分析(vulnerability analysis)という手法を用います。これは大きく分けて2つのアプローチから検討されます。一つ目は、強みが弱みに変わる原因となる乱気流を基本計画作成時の環境予測に当てはめ、あらゆる可能性から想像的に考慮していきます。さらに重要なのは、ターニン グ・ポイントである変化事象が、何を引き金に引き起こされるかを予測することです。このターニング・ポイントないしトリガー・ポイントが戦略的な「環境モニターニング」を意味します。

次に、もう一つの重要なアプローチとして、致命的な環境変化を取り扱います。これは、「自社の現在弱みが致命的になる」事態を意味します。潜在的要因が、 何らかのきっかけで突如顕在化し、自社に多大な影響を及ぼすと言ってもいいでしょう。この場合にも同様に環境モニターニングが求められます。

企業が抱える危機的状況を認識し、事前に不測事象対応計画をもって企業経営にあたることが、リスク・マネジメントであり、不測事象計画の発動をもってクライシス・マネジメントと評することもできます。